
こんにちは、具です。
私は普段、保健室の中へいることが多いのですが、授業に参画したい派の養護教諭です。とくに性教育にかかわる領域については、教科担任や担任の先生がT1・養護教諭がT2として入るTTの形で、一緒に授業をつくることに意味があると感じています。
保健室での関わりももちろん大切ですが、授業という場で出会える子どもたちの姿は、また少し違います。
今回は、体育科の先生と一緒に授業をして、その中で見えてきたこと、感じたことを、まとめてみようと思います。
- 🧑🏫なぜ、授業に参画したいのか
- 💡実際にやってきた、体育科の先生×養護教諭のコラボ授業
- ✏️授業後の「ふりかえり」を大切にしている理由
- 🎈授業をやってみて実感したこと
- 🌈おわりに:性教育に苦手意識をもつ先生へ
- 【過去の「仕事」に関する記事はこちら】
🧑🏫なぜ、授業に参画したいのか
養護教諭の仕事は、「保健室にいること」で完結していると思われがちですが、経験を重ねるうちに、それだけでは足りない感覚をずっと持っていました。
保健室へくる生徒は、すでに困りごとを持っている場合が多い一方で、困っているけれど言葉にできない子、そもそも相談していいと思っていない子も、教室にはたくさんいます。
とくに“性”(性教育)は、その典型だと思います。
※現在、「性教育」は「性に関する指導」と名称を変えていますが、一般的に聞きなれている「性教育」で本記事は統一します。
体の変化や性に関する疑問は、人と比べにくく、恥ずかしさもあって、声に出しづらいものです。だからこそ、授業という全体の場で、安心して触れられる機会が必要だと感じています。
体育科の先生と一緒にTTで入ることで、特別な話ではなく、学習の一部として性の話ができるーーその空気感がとても大事だと思って、授業に参画したいと思うようになりました。
💡実際にやってきた、体育科の先生×養護教諭のコラボ授業
これまでの実践例
これまで、何度か体育科の先生と一緒に授業をしてきました。“コラボ”なんてわざわざキャッチーな言い方をしていますが、一般的なTTの授業です。
参画した授業の内容はさまざまですが、
- 中学1年生で習う「生殖機能の成熟」(体の変化・受精と妊娠等)
- 中学2年生で習う「ケガの応急処置」
- 中学3年生で習う「性感染症とその予防」
- 時期によっては「感染症予防」としての「手洗い」
こんな感じで、体育科の先生と一緒に授業をしてきました。
基本的な役割分担は、教科担の先生がT1として授業を進め、私がT2として補足や専門的な説明に入る形です。教科担の先生が前に立ってくれることで、授業全体が安定しますし、私は子どもたちの表情を見ながら、「今、どこが引っかかっていそうか」を拾いやすくなります。
また、体育の授業という文脈があることで、体の話を自然に扱えるのも大きなメリットです。性教育だけを切り出すのではなく、運動や健康の延長として体を学ぶ。その流れの中に養護教諭がいることで、子どもたちの受け取り方も、少し柔らかくなるように感じています。
中学1年生「生殖機能の成熟」
りゅう先生、いっしょに授業やりましょうよ!
お。その時期ですね?いいですね、やりましょう!
日頃から先生とは生徒のことだけでなく、授業の話もしていたので、その時期が来ると、自然とTTの授業が決まります(もちろん、校長先生にも許可を得て授業へ入っています)。教科書と指導要領を確認し、授業の対象となる生徒の実態を擦り合わせながら、授業の進め方を打ち合わせ📝

教材準備を整えて、いよいよ授業に入ります。
月経のしくみは複雑だけど、今日は特別ゲストのりゅう先生が一緒にお話ししてくれるぞー。
よろしくお願いしまーす。ーーでは、さらに特別ゲストを呼んじゃいましょう。“子宮先生”ー!
子宮先生:T1の先生に、両手にボールを持った状態で、両手を水平に広げ、脚を揃えて「T」の字を描くように立ってもらうことで、女性の生殖器の構造を視覚的に理解できるように見せるやり方。かつて講師の先生に教えていただいて以来、授業で大活躍していただいています。
子宮先生はT1の先生にやってもらい、月経等のしくみについて説明をしていきます。養護の出番は、50分授業のうち、後半の20分くらい。進級しても、生徒たちは、このときの話をよく覚えてくれています。
中学2年生「応急手当の意義と基本」
りゅう先生、包帯法と固定法・止血法のところを一緒にやってもらえませんか?
いいですね!やりましょう♪
ただ説明をするのではなく、やり方を見せた後に、ペア学習として、おたがいの体で実践してみます。
無言でただ巻くんじゃなくて、「大丈夫ですか?」「きつくないですか?」と声をかけてやってみましょうね。
あ、それりゅう先生がいつも言ってるやつ。
そうそう!よく知ってるねぇ。
クラスを2つの班にわけて、教科担チームが心肺蘇生法、養護チームが応急手当(固定法等)を学んでローテーションするという方法を取ったこともあります。時間が許せば、レジ袋やバスタオルを活用した、家にあるものを使ってできる固定法を伝えたこともありました。
中学3年生「感染症の予防」
りゅう先生、そろそろ性感染症のところに入ります。
お、今年もやりますか!
中3セット(水道水・透明のプラコップ・フェノールフタレイン溶液・駒込ピペット)を用意して、いざ授業開始!
授業では、性感染症がみえないけど広がっている様子がわかる「性感染症ひろがりゲーム」を取り入れています(これもかつてお世話になった講師の先生から教えてもらったもの)。いまでは一般的と言っても過言ではないほどに、取り入れている学校さんが増えていますね。
今すぐにピンとこなくても、この先、自分や周りの人が悩むときがあるかもしれません。そういうとき、相談できる場所や、できることがあります。
1年生の授業でも同じことを伝えますが、性感染症や体の変化について話すときは、怖いものという受け止めにならないよう、特に言葉選びは注意しています。
- なにかあったら、相談できる場所があること。
- 保健室でも相談に乗っていること。
- 世の中には選択肢が存在すること。
この3つは、授業の最後に必ず伝えるようにしています。
番外編:セクシュアルマイノリティとして登壇した経験
セクシュアルマイノリティの養護教諭というダブルマイノリティの私は、時と場合によっては、講演会のような形式でお話しする機会がたまーーーーーーーにあります。私は研究者ではないので、その道のプロのようなことはできませんが、今後も自分の経験がなにか役に立てることがあれば、役立てていきたいものです。
✏️授業後の「ふりかえり」を大切にしている理由
授業で私が特に大切にしているのが、授業後のふりかえりです📄
特に、体の成長や性に関する理解は、本当に個人差が大きく、同じ説明を聞いても、受け取り方はさまざまです。
そこで、ふりかえりの中でアンケートを取り、「わからなかったこと」「疑問に思ったこと」を書いてもらうようにしています。名前は出さず、安心して書ける形にするのがポイント💡
さて、どんな感想が返ってきてるかな。
そこに並ぶのは、子どもならではの素朴な疑問です。
- 射精のときに痛みがあると病気なのか。
- 生理が始まらないとどうなるのか。
- なぜ生理痛は起こるのか。
- 精通が遅いとまずいのか。
- 精子はどうやって卵子のところへ行くのか。
どれも、大人にとっては「当たり前」や「気にしなくていい」ものかもしれません。でも、子どもたちにとっては切実な疑問です。授業時間は限られていますが、子どもの声にはできる限り、答えたいのが教師というもの。
次の授業で返せるように、授業組み立ててみたんですけど…
ありがとうございます。ーーなるほど、じゃあ、このときに復習として再度「子宮先生」を使って…
こうした声を読むたびに、「ああ、今ここで引っかかっているんだな」と、こちらが学ばせてもらっていることを実感します。
🎈授業をやってみて実感したこと
授業に入って一番強く感じるのは、生徒との距離がぐっと縮まるということです。授業をする前は話したことがなかった生徒と話せるようになったり、「実は…」と悩んでいたことを話してくれたりするようになるので、授業に参画することを楽しいと私は感じています。
また、自分では見えていなかった、子ども目線の性に気づけるのも、私にとって大きな学びです。授業をきっかけに、どう“教える”かよりも、いかに“話しても、聞いても大丈夫”と感じてもらえるかを考えるようになりました。
授業ができるのは、1つの単元につき、多くて2時間ーーここですべてを教え切ることは最初から無理な話です。そこで、日常的に知れる機会を増やそうと考えました。たとえば、
- トイレの個室に生理に関するよくあるQ&Aを掲示する(男子版も作成したい)。
- 保健室に、ナプキン以外の生理アイテムや、避妊について学べるアイテムを置く。
- 保健室に、性に関する本や絵本・漫画を並べる。
性に関わること以外のものに混ぜて、「手に取ってもいい」空気をつくることも意識しています。授業と日常が、ゆるやかにつながっていく感覚です。
こうした仕掛けをきっかけに、「この先生は、体や性の話をしても大丈夫な人なんだ」という安心感が、少しでも伝わっていったらいいなぁ。
🌈おわりに:性教育に苦手意識をもつ先生へ
性教育に苦手意識をもつ先生は、決して少なくないと思います。きっと、養護教諭の中にも苦手意識のある先生はいますよね(かつての私もそうでした)。でも、できる工夫って色々あると思います。たとえば、
- TTで分担して授業をする
- Zoom等を使って、オンラインで保健室(養護教諭)と教室をつなげて、短時間だけ授業に参画する(保健室を離れる時間を少なくできるというメリットがある)
- 授業の資料として、説明文や動画を作ったり、おすすめの動画教材を共有する
- 授業でやった内容を、保健だよりでふれる
- 保健室前にモニターを置いて、性に関するスライドをデジタルサイネージとして流して日常的に学べるようにする
できそうなところから、試しにやってみるのはどうでしょう?私も大概のことは、「とりあえず試しにやってみよう」で始まっています笑
そもそも、体の機能って複雑ですし、性の話にはどうしても個人の価値観が反映されやすい。間違ったことを言ってしまったらどうしよう、という不安もあると思います。これについては、学び続けるしかないというのもひとつの事実かもしれません。
養護教諭の場合、授業をしなくても、保健室には多かれ少なかれ、性に関する悩みをもった生徒が来室します。だからこそ、自信を持って話せるようになりたい。経験を重ねるたびに強くそう思って、SNSをきっかけに知った性教育のコミュニティに入って勉強を始め、その一環として、「思春期保健相談士」の資格も取りました✏️
学び直したことで、より自信が持てたし、授業に参画したいという思いに至ったのだと思います。
おかげさまで、毎年新しい情報を学び続けることで、今では、基本的なことならなにを聞かれても答えられると思えるくらいにはなりました。さらに、授業をやることを楽しいと思えるようになったし、保健室で性の相談を受けるときも、以前ほど焦らなくなりました。
やってみて実感するのは、決して完璧ではなくとも、学び続けている大人でいることが大事ってこと。それが、ひいては子どもの安心につながるのだと思います。これからも、できるところから続けていきたいです。
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ちなみにうちの猫さまは、私が「授業のふりかえりを見よう」と広げていたプリントの上にドスンと寝転びだしました。「家で仕事なんてするんじゃないわよ」とでも言いたげに、気持ちよさそうに眠ってしまわれ、全身で作業を拒絶されたのでした…。
【過去の「仕事」に関する記事はこちら】
rs-hibi-log1001.hatenablog.com
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